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2004.09.12

04・09・12 クズのアメリカ帰化物語

うちの近所の空き地にはけっこうクズ(葛)があります。毎年ツルを伸ばしては刈り取られの繰り返し。根が残っているので決して絶滅はしないどころか年々歳々たくましくなる。

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クズ 2004・09・11 横浜市青葉区 Copycenter 2004 Akira Kamakura
花が美しいとはいえクズをわざわざ庭に植える人はいないし、園芸店で売っているのも見たことがない。現実はほとんど雑草扱いでしょう。

それでも多くの人はこの根っこから澱粉をとってくず餅にすると思いこんでいるし、蔓を葛細工にする人もいる。ウチの隣の亡くなった奥さんが伝統工芸家で、クズの蔓を取って来ては細工に凝っていたものでした。

よく蔓延するけれど有用なヤツだという認識があるので、日本ではこの「雑草」をみる目がやや寛大であると思う。

ところがアメリカのように、可愛いだけの花だと思って日本から取り入れた側の人たちは、しまった!という思いがあるのでしょうかね、その目はかなりキビシイ時期があった。

アメリカ南部のアラバマ大学のサイトにはクズの驚くべき秘話という解説があります。興味深いので内容を簡単に紹介しておきましょう。以下はそのサイトだけでなく、幾つかの日本の書籍も参考にしています。

そもそもは1876年のアメリカ建国100周年記念の博覧会がフィラデルフィアで開催された時に、日本が出展した日本庭園にクズが植えられていて、その大きな葉、かわいい花、そして甘い香りのすべてが、アメリカの園芸家を魅了してしまったことに始まる。

園芸家が喜んでクズを植えただけでなく、1920年代にはフロリダの園芸業者がこれを家畜の飼料としても使えることに気づき、通信販売ルートに乗せてしまった。1930年代の大恐慌の時代には、土壌を風化や浸食から護る効果が注目されて、失業者対策を兼ねてこれを荒地に植えまくったらしい。1940年代には農家がクズを植えることを奨励する補助金まで出したという。

この頃、ジョージア州コヴィントンのチャニン・コープ"Channing Cope"という人が、クズの土壌保護効果を雑誌やラジオ番組を通じて熱心に説いていて、これを「奇跡の蔓植物」にまで持ち上げて、クズ・クラブ"Kudzu Club"まで作ったといいます。ワインの世界だとジンファンデル種のワインを持ち上げるZAPという団体がありますが、似たようなもんでしょう。

このコープという人は「かつて南部では綿が王者"king"だった。しかし今やクズこそが王者だ」と言ったそうです。日本では地味な存在だったのに異国でこんなに厚遇されるとはクズもさぞかし面食らったことでしょう。

しかしクズの栄光の時代もそこまでで、アメリカ政府は1953年からクズの普及促進を止めます。要するに蔓延り過ぎたということ。特に南部の気候がクズ向きで、成長がやたら早く1日に1フィート伸びたといいます。良い性質があっても、こんなに蔓延ると日光をさえぎりますから他の植生に対して悪影響があることがハッキリしてきた。

なにしろアメリカ南部では何マイルも何マイルも果てし無くクズの繁みが続く風景がみられるようになってしまったというのですね。

で、今度はクズ退治の除草剤が研究されたのですが、これがなかなか効かないどころか、ある薬剤の場合、クズはかえって元気になってしまったといいます。クズ退治は4年から8年にわたって根気よく除草剤を散布しないと駄目なんだそうです。

で、米国農業省は1972年にとうとうクズをやっかいな雑草"weed"として認定するのです。私が持っている1979年版のオーデュボン北米野生植物案内図典〈東部編〉でもクズの解説では、"exceedingly aggressive vine"、つまり、過剰なまでに攻撃的な蔓植物とありまして、それゆえに"pest"有害植物だとしています。もっとも有用性の解説もあります。日本では根っこの澱粉を食べるとも書いてある。その後アメリカではクズは帰化したweedの代名詞にまで転落しています。「ジャーマン・アイビーは西海岸のクズだ」なんて言われるんですから。ホントのクズになってしまった。

さて、クズの野原にアンゴラヤギを放し飼いにする研究が成功するなど、その後だんだんと葛細工やら葛紙そして医薬品なども含めて実用的利用の開発も進んで来たようです。日本ではもともと葛根湯(かっこんとう)ですからね。

結局アメリカでのクズの別名として知られているのは、
mile-a-minute vine (毎分1マイル伸びる蔓)
とか
foot-a-night vine (一晩で1フィート伸びる蔓)
と、成長の速さへの驚きを表現したものばかりです。

こういう命名は面白いけどちょっと表面的すぎる。原住民が何千年も一つの植物と付き合う中で命名するような深みがないんですね。日本ではクズの地方名としてはウマノボタモチ(千葉)とかウマノオコワ(群馬)があるとのこと。

「クズ」の語源は日本では名産地である吉野の国栖(くず)地方の名前から来ているという説が有名ですが、中尾佐助によるとクズの澱粉を食する文化は照葉樹林帯からメラネシアに至る広い地域に見られるといいますから、この2音節の単純さを考えても、語源はもっと古い別の何かから来ているような気がします。

とにかく、こういうわけで、クズは日本からアメリカに帰化した植物の中でも、広く深く浸透するのに劇的に成功した植物ではないでしょうかね。

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