« 04・12・11 大地震を体験した2002 Turley "Dusi" Zinfandel | トップページ | 04・12・19 イチョウに異常なし、今のところは »

2004.12.12

04・12・12 ジンファンデル(Zinfandel)の正体とその故郷

知る人ぞ知るMinister of Useless Information(MOUI=無駄情報担当相)なる肩書をお持ちの方から、こともあろうにジンファンデルの正体がクロアチアのツェルリェナック・カシュテランスキー種(Crljenak Kastelanski)だとストーンヘッジ(Stonehedge)というNapaのワイナリーのホームページに書いてあるよと教えられました。先日、MOUI氏主宰のある会食で、ワイン選択を任された私がプリミティーヴォ(Primitivo)を選び、これがジンファンデルの元祖だと解説したのがいけなかった。気になったMOUI氏は帰宅後に色々調べたのですね。

この情報をもらった私は、手元のワイン用ブドウの辞典類ではクロアチアのプラヴァッツ・マリ(Plavac Mali)がジンファンデルに近いと書いてあるので、その異名の同種でも見つかったのかぐらいにしか思いませんでした。

が、気になるので私なりに調べてみると、そんないい加減な話ではありませんでした。結論的にはこういうことです。

ジンファンデルがプリミティーヴォと同一種であることはDNA鑑定ですぐに判明した。ただしプリミティーヴォがイタリアで栽培され始めたのは意外に新しくて18世紀頃だと歴史学的に判断される。

クロアチアのプラヴァッツ・マリはDNA鑑定で、驚いたことにジンファンデルとドブリッチック(Dobricic)という種を掛け合わせた種であることが判明した。

ならばクロアチアにジンファンデルと同じDNAを持つ種がかつて存在した筈だという推論になる。南イタリアのプリミティーヴォもアドリア海を隔てたクロアチアから入って来たと考えれば辻褄が合う。

そこで、クロアチアでジンファンデルと同一のDNAを持つ種を探したところ、とうとう地元でツェルリェナック・カシュテランスキーと呼ばれている種を発見したという話なのである。

「ツェルリェナック(Crljenak)」は「赤いブドウ」の意味。「カシュテランスキー(Kastelanski)」はカシュテラ(Kastela)という地名から来ている。つまり「カシュテラの赤いブドウ」。カシュテラはクロアチアで二番目に大きな都市とされるスプリット(Split)のちょっと北に位置する海辺の街。

このブドウ探しとDNA鑑定に取り組んだのはカリフォルニアのワイン業界の研究基盤というべきUC Davis=カリフォニア大学デーヴィス校のワイン醸造学のキャロル・メレディス教授(Carole P. Meredith)。ここに詳しい講演録のpdfがあります。上に書いた説明もこのpdfの要点です。

ちょっと補足しますと、今日、ツェルリェナック・カシュテランスキー種はクロアチアでも殆ど残っていないといいます。2001年末のこの発見当時、研究チームが調べた無数の地元のブドウ園の中のたった一ヶ所の数千株のうちのたった9株だけだったとのこと。※他の資料では8株となっていますが、メレディス先生は自分で9と言っています※

そのブドウ園では、株の植え替えが進んでいる上に、現地の人々もこの種をことさら特別なものとは認識していなっかたそうで、メレディス先生の調査があと数年遅れていたら見つからなかったかも知れなかったのです。

つまり現地では絶滅の道を歩んでいる種なのですが、それは何故か?この点についてジンファンデルの教祖の一人であるリッジのポール・ドレーパーの下でブドウ栽培を担当しているデヴィッド・ゲイツが一つの考察を披露しています。

何故この品種は現在ほとんど絶滅に近い状態になっていて、プラヴァッツ・マリやバビッチャなど他の品種が代わりに植わっているのだろうか。原因は、ジンファンデルの大きくて果汁の多い果粒と、薄い果皮にある。夏から秋にかけて降雨のあるヨーロッパの気候下では、この品種は病気やカビ害に極めて冒されやすいのである。今日のダルマチアで最大の栽培面積を誇る赤品種はプラヴァッツ・マリだが、こちらはジンファンデルから生き生きとした果実の個性こそは貰ったものの、ひ弱な果皮については受け継がなかった。カビへの抵抗性を持ち、適度な酸と多量のタンニンを含む品種なのだが、これらは暖かい産地のワインに必須の性質なのである。扱いやすく、かつワインの味も良いようなブドウを栽培家は常に探しているもので、プラヴァッツ・マリはうってつけだったのだ。
で、ジンファンデルがカリフォニアで大きく花開いたのは一重に収穫期に雨が降らないという気候条件に原因があるとしています。

メレディス先生がクロアチア探索に取り組む切っ掛けを作ったのはグルギッチ・ヒルズ(Grgich Hills)・ワイナリーの創立者Miljenko“Mike”Grgichで、もともとクロアチア出身の彼が、1996年に、メレディス先生に故郷のプラヴァッツ・マリがジンファンデルと同じだと思うので詳しく調べてほしい、そのために必要な支援は何でもする、と持ちかけたことだそうです。この経緯は先生の講演録にも、また、Grgich Hillsのページにもそう書かれています。

メレディス・チームではZinfandel=Primitivo=Crljenak Kastelanskiと判明したこのブドウの種を三つの頭文字を組み合わせてZPCと呼んでいるとか。

プリミティーヴォの経緯は、18世紀にクロアチアにおける宗教的迫害が原因で南イタリアに逃れた僧が伝えたと考えられるとのこと。

アメリカにジンファンデルとして伝播した経緯に関する一つの説は、フランツ・ヨーゼフ皇帝(Franz Josef)がウィーンでブドウの木を色々集めていて、その中に含まれていたツェルリェナック・カシュテランスキー種が、後に園芸業者の手によってアメリカのロング・アイランドに輸出された可能性があるといいます。

そして、オーストリアにはZierfandlerという白ワインのブドウがもともとあり、輸出入の書類のやりとりの中で情報の混乱がおきて、ツェルリェナック・カシュテランスキー種の苗をZinfandel種だと勘違いした可能性が指摘されております。さもありなんと思います。そもそもツェルリェナック・カシュテランスキーなんて名前がアメリカに定着するとは信じられないですよ。

なお、メレディス先生の研究室ではジンファンデルだけでなく、他の有名な種についてもDNA鑑定してその家系を明らかにしています。

カベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)はカベルネ・フラン(Cabernet Franc)とソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon blanc)の交配によるもの。これは意外ですね。大方の俗説が吹っ飛んだ。【追記 05・01・09】参照。

カリフォニアでプティ・シラー(Petite Sirah)と呼ばれる種はフランスのデュリフ(Durif)と同一であり、そのデュリフは本来のシラー(Syrah)とペルーサン(Peloursin)の交配であると。プティ・シラーはシラーと関係ないと感じていた専門家はこの判定にのけぞったらしい。

シャルドネ(Chardonnay)はどうなのか?そもそも中世において、フランスでは高貴な人々は斜面の土地にピノ(Pinot)を栽培し、農民は平地にグエ(Gouais)を植えていた。ちなみにピノはPinot noirもPinot grisもPinot blancもDNAパターンは同じであり、専門的には、色が違っても同一種なんだそうです。その理屈がよくわかりませんが。このように両者はキッチリと栽培地を分けていたにも係わらずその境界地域で自然交配がおきてブルゴーニュの様々な種が生まれたのであり、シャルドネもその一つにすぎないというのですね。

DNA解析の威力には驚きますね。この際、日本の甲州種も調べて欲しいものです。

【追記 05・01・09】
カベルネ・ソーヴィニョンの起源に関するこれまでの説に関連して、ヒュー・ジョンソン(Hugh Johnson)は「ワイン世界地図」"World Atlas of Wine(4th edition)"のクロアチア(かつてのユーゴスラヴィア)の解説でこんなことを書いています。

Northern Croatia and Serbia are essentially mass-roduction cooperative country.The long coastal strip of Dalmatia is a complete contrast --- a region full of original, if elusive, rewards. From Rijeka south the great red grape is the Plavac Mali. If it is true that the original home of the Cabernet was in Albania, it is possible to imagine that this small dark berry, giving tannic, strong and chewy wine, is a long-lost relation.
(私訳)クロアチア北部やセルビアは基本的には協同組合で大量生産するワインしかない地域。これに対してダルマチアの細く長く続く沿岸地域は全く対照的であって、ここには、よく探せばだが、独特の魅力が満ち満ちている。リィエカ(Rijeka)から南では赤のブドウはもっぱらプラヴァッツ・マリ。カベルネの故郷がアルバニアだという説が本当だとして、想像をたくましくすると、この小ぶりの黒ブドウこそが、タンニンのしっかりした力強く味わい深いワインを作ることから、実は遥か昔に離散してしまったカベルネの親類の一つだと言えるだろう。

ヒュー・ジョンソンもこの記述を改訂する必要がありますね。

それからKastelaの発音はここで確認したところ(実際の発音を聞くことがでできます)カシュテラが近いので、最初にカステラと書いた記述を訂正しておきました。

|

« 04・12・11 大地震を体験した2002 Turley "Dusi" Zinfandel | トップページ | 04・12・19 イチョウに異常なし、今のところは »

コメント

beeさんの行き届いた調査と驚くべき結果に感動しました。ところで、カバルネ・ソービニョンがカバルネ・フランとソービニョン・ブランの交配という説は新説だったのですか?なんとなく名前からしてもさほど意外性がなかったように感じました。ところで、DNA鑑定というのはかなり定着しているようにも思いますが、一般的にはDNA TYPING AND IDENTIFICATIONというようですね。こういう記述を発見しました。DNAfingerprintingだと指紋法とでもいうのか?
(犯罪に関する論文の抜粋ですが)
http://faculty.ncwc.edu/toconnor/425/425lect15.htm
                 ふうこお

投稿: ふうこお | 2004.12.13 06:11

ついでに、この出典のurlを記述しようとしたら、システム(ココログ)に拒否されました。どうしたらいいんでしょ?
                ふうこお

投稿: ふうこお | 2004.12.13 06:12

ふうこおさん
カベルネ・ソーヴィニョンの俗説としては、
スペインから来たという説とか、ローマ人がアルバニアから持ち込んだという説などがあったそうです。私はスペインかなと感じていました。これが否定されちゃった。

ところでURLは単純にhtmlのタグをつけずに
http://…
と書けばクリッカブルに表示される筈ですよ。

一つ前に記入したのがその例です。
Kastelaのサイトです。

投稿: bee | 2004.12.13 06:59

補足ですが、メレディス先生の下で勉強していたクロアチア人が、この研究に通訳もかねて参加していたのが、研究大成功の一つの原因だそうですが、彼女は今やクロアチア最大の研究所
Rudjer Boskovic Institute (RBI) の研究者になっており、最近、この発見の経緯を本にまとめています。以下のサイト↓参照。
http://www.crozinfandel.com/index.htm

この本の入手方法をメールで問い合わせ中です。欲しいという方、他にもいますか?

投稿: bee | 2004.12.13 07:07

http://faculty.ncwc.edu/toconnor/425/425lect15.htm

これで登録できるでしょうか?

ふうこお

投稿: ふうこお | 2004.12.13 08:16

ふうこおさん 元のコメントの原文引用箇所をこのURLに置き換えておきました。※ココログではこういう具合に書き込まれたコメントの編集もできてしまいます。※

投稿: bee | 2004.12.13 09:41

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/4033/2246149

この記事へのトラックバック一覧です: 04・12・12 ジンファンデル(Zinfandel)の正体とその故郷:

» 05・01・06 クロアチアワインDingac [またいらないモノ買っちゃったよ]
年末に京橋にあるクロアチア・レストラン「ドブロ」(Dobro)で念願のクロアチア・ワインを飲みました。 ブドウの種類はプラヴァッツ・マリ(Plavac mali)。アペラシオンではこのディンガチ(Di [続きを読む]

受信: 2005.01.06 07:46

« 04・12・11 大地震を体験した2002 Turley "Dusi" Zinfandel | トップページ | 04・12・19 イチョウに異常なし、今のところは »