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2005.04.09

05・04・09 ダン・エッティンガーの明晰な音楽

昨晩のサントリーホールの東フィル定期は、ダン・エッティンガー(Dan Ettinger)という初耳の指揮者の演奏。明晰にしてメリハリの利いた情感豊かな音楽を作る、とてもいい音楽家だという印象が残りました。

曲目はワグナーのタンホイザー序曲、モーツアルトのピアノ協奏曲21番ハ長調(これは指揮者当人の弾き振り)、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲、そしてリヒャルト・シュトラウスのティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯。

私の乏しい音楽経験の中で考えるとシャルル・デュトワに似ていると感じました。

この指揮者は輪郭のモヤモヤした音を嫌い細部まで明晰にしてくれる。音楽を鑑賞するという意味であらゆる場合にそれが良いとも言えませんが、ある音楽が、そもそもどういう風に構築されているのか、ちゃんと見せてほしいという欲求が私などにはあります。モヤモヤ仕立ての音楽はあくまでも明晰版からの「ゆらぎ」として別途楽しむわけです。

デュトワの方の話に脱線しますが、N響オーボエ奏者・茂木大輔氏の「オケのなかの蛙、大海に挑む」というエッセイ集には、N響のDECCAデビューに向けたリハーサルの時に果てし無く駄目だしを受けたことが

金管、木管、オーボエ、トランペット、そういう、アインザッツのはっきりした楽器が、ちょっとした入りでばらけるのはよくあることだ。いや、いつもは完全に一致したタイミングで出ている、と思い込んでいたものが、それではだめだ、もっともっと完璧に、と要求される。
と書かれています。

タンホイザーはたまたまショルティ(Georg Solti)のリハーサル風景のDVDが面白くて何度も見て思うのですが、なんか、バイオリンが歯抜けの細かい3連符を、金管の息の長いメロディーにキッチリ合わせて、延々と弾かないといけないところなんか、けっこう破綻しやすい過酷な曲なのではないかと素人なりに思っていました。しかし昨晩の演奏はそういう部分がピッタリあっていて実に見事でした。

弾き振りモーツアルトの第2楽章は日頃BGMなどで耳に馴染みすぎて軽音楽化しているわけですが、じつに緊張感みなぎるドラマチックで新鮮な音楽として聴かせてくれました。

この日のオケのパートの配置がちょっと異例で、バイオリンの第一と第二を左右に分けて配置し、コントラバスやチェロを左奥に持って来ていました。音響的な理由は当然あるのでしょうが、舞台演出効果も感じることができました。指揮をする腕が左も右もほぼ同じように宙を舞うわけですよ。右や左の奏者達に指揮者の愛を等しく振りまけるように配慮しているようにも見えましたな。特に弾き振りでそれを感じました。

ブラームスは演奏というよりは、変奏曲の作り方に関する作曲家の自己主張のようなものに耳を傾けて聴いておりました。何といっても如何にも古典的で落ち着いた主題の提示が終わって、最初に聴かせる第一変奏は、まるで安心しきっている聴き手を椅子から突き落とすような趣向です。かくれんぼが始まったかのように、おい、主題はどこに行ったんだとキョロキョロさせられるんですね。おそらく当時の在り来りの変奏からいかに外すかという工夫を色々したんだろうなと改めて感じましたね。

当夜のプログラムの解説(寺西基之氏)を一夜明けて読むと、なるほど、これは性格変奏という考え方なんですね。

ベートーヴェンが発展させたいわゆる性格変奏(主題を単に装飾的に変化させるのでなく、主題の部分的特徴だけを保持して各変奏ごとに新たな性格を作りだす書法
と書いてある。

最後のオイレンシュピーゲル、悪戯だからこそか、音楽のムードが突如パッと変化する、複雑で気紛れで難しそうな曲ですが、なんかいい感じでしたね。こういう曲を聴くと東京フィルハーモニーって相当レベルが高いんじゃないかと、いつも思います。

私の思い込みかも知れませんが、この夜の東フィルのオケの皆さんは演奏が終わっていつものようにニコニコと拍手を浴びている時、このダン・エッティンガーというまだ若手に見える指揮者と一緒に、何か新しい境地を切り開いたという達成感を感じているように見えましたね。

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