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2007.01.15

07・01・15 不二家、ああ、不二家のホットケーキ

もう10年ほど前のことだったか?あるいは15年以上前だったか、記憶はハッキリしないのだが、成田空港でのことだ。

当時、海外出張に飛び立つ前の落ち着かない時間を、私は空港ビルの不二家で過ごすことが多かった。なぜなら、そこでパンパンに厚くて、こんがりとムラなく狐色に焼かれた昔ながらの不二家のホットケーキを食べることができたからだ。

ある時、隣の席にどやとやと4-5名のいい歳をしたビジネスマンが入って来た。聴くともなく聞いていると、驚いたことに、みんなホットケーキを注文したのだ。「これがうまいんだよ」とリーダー格と思しきオッサンが言っている。エーッ?!と、思わずそっちに顔を向けたものだった。自分と同じ趣味のオヤジがいたからって驚くこともないのだが!しかし、この瞬間、私の不二家への個人的愛着が、じつは、国民的普遍性を備えているのではないかと実感したのだった。

昭和20年代後半、私が大田区山王の幼稚園に通っていた頃、国鉄大森駅前の不二家で食べることができたホットケーキは見事だった。まず、形がよろしい。キッチリと幾何学的に円形をしている。厚みも1cmはゆうにある。しかも縁が垂直に立っている。おそらく輪っぱのような型の中に流し込んで焼いたに違いないと見ていた。そして、ケーキの表面が一面ムラのないキツネ色に焼けている。ケーキミックスが熱い鉄板の上で泡立った形跡もない。それが二枚、皿の上でピシッと重なっている。中央には四角いバターが載っていて、すでにケーキの熱でトロトロと溶け始めている。

シンプルであるにもかかわらず、実に格調高いケーキだった。幼稚園児だった私はこの威厳に気押されてか、ホットケーキは高級品だと思い込んでいたほどだ。

ところが、である。誠に遺憾なことに、日本のホットケーキはその後、堕落の一途をたどって来たように思う。

ひとつにはアメリカの「パンケーキ」文化の侵略である。恐らく80年代後半だろうか、厚みに欠ける、形がいい加減な、表面のあばたもあらわなパンケーキがのさばり始めた。せんべい布団みたいな薄いやつを三枚ほど重ねて、アイスクリームや生クリームを載っけて一丁上がりだ。赤い苺やらミントの葉を添えるのも本体の貧弱さを誤魔化す目くらましとしか見えない。

もっと酷いのは、いや、余りにも酷くてハンカチの隅を噛んで泣きたくなるのは、スカスカのスポンジケーキを冷凍したやつだ。電子レンジでチンされて湯気を立てているブヨブヨのコイツが出てくると、私は注文してまったことを激しく後悔する。チンした店員に責任はないので黙っているが、なんで、こんなものを出すのか!と心の中でいつも絶叫している。

こうした堕落が堕落とも思われない世の中にあって、不二家はホットケーキの「国体護持」にかなりこだわりがあったように見えた。中でも成田空港店はその最後の砦たらんと頑張っていたと私は思う。恐らく冒頭に紹介した隣の席に座ったビジネスマンも同じような認識だったのではないか。

しかし、今となっては全てが昔話でしかない。私の行動範囲でまともなホットケーキをメニューに載せている不二家はもうない。55年前に通った大森駅前の不二家は物理的には今も店舗が残っているが、そのメニューにホットケーキは見当たらなかった。

そして今回の洋菓子に賞味期限切れの材料を使っていたという事件。一生涯の不二家ファンの一人として、とても残念だ。クリスマスにサラリーマンの父親が子供たちのために不二家のショートケーキを買って行く日本の風物詩をどうしてくれるのだろう。

ホットケーキを復活しろとは言わないが、注意深い品質への目配りから生まれたに違いないあのキチッとした形とむらのない狐色を思い起こしてほしいものだ。

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コメント

 お久しぶりです。Alice堂です。
 いろいろなBlogを読むと,結構皆さん不二家の何かを食べて感動した経験をお持ちの方が多いようですね。
 私の場合はサンドイッチです。子供の頃,世田谷の三軒茶屋に不二家のレストランがあって,あるとき母がそこからテイクアウトのサンドイッチを買ってきてくれたのですが,そのパンのふわふわの感触,ハムサンドだったと思いますが,そのなんとも上品な味は,今でも覚えています。やがてその店へいって,何度かサンドイッチを注文しましたが,そのたびに感動したことを覚えています。

投稿: Alice堂 | 2007.01.16 01:34

こういう事態になってみて不二家が子供の頃の思い出が詰まったかけがえのないブランドだということを再認識させられた感じですね。もっとも今の子供たちにとってはそういうわけでもないでしょうが。
引っ越しの時にセピア色に変色した古いアルバム写真を捨てていいものかどうか迷う事態に似ている?ぜひ残って欲しいものです。

投稿: bee | 2007.01.18 07:30

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不二家が賞味期限の過ぎた材料で商品を作っていたという不祥事が日本に衝撃を与えています。ペコちゃんの泣き声が聞こえてきそうな不二家の不祥事を斬ります。 [続きを読む]

受信: 2007.01.19 01:41

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